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大阪高等裁判所 昭和47年(行コ)17号 判決 1973年1月30日

大阪府八尾市青山町二丁目五番二七号

控訴人

藤井管治郎

大阪市東区大手前之町

被控訴人

大阪国税局長

丸山英人

右指定代理人検事

二井矢敏朗

訟務専門職 山田太郎

大蔵事務官 松原二郎

同 吉田周一

同 松井三郎

右当事者間の裁決取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和四二年分所得税につき昭和四五年三月一一日付でなした裁決を取消す訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する主張ならびに証拠の提出援用認否は、控訴人において「本件裁決書謄本を受領した控訴人の子の妻は、たまたま控訴人の家に来ていた際に、郵便配達員に対して、いわれるままに認印を渡し、本件裁決書謄本が封入されている書簡を、どのような書簡かどこから来たかも知らされることなしに受け取り、封も切らずに控訴人方の戸棚に入れ、そのまま帰つてしまつていたものであつて、その後も控訴人に何の連絡もしなかつたため、控訴人は、昭和四六年二月五日に戸棚の掃除をしていたときに、はじめて右書簡に気づき、本件裁決書謄本が送られていたことを知つた。もとより、控訴人が同女に本件裁決書謄本の代理受領権限を与えていた事実もない。したがつて、同月一六日に提起された本訴は、出訴期間内に提起された適法な訴えである。」と述べ、当審証人生野敬子の証言を援用し、被控訴代理人において、控訴人の右主張事実を争つたほかは、原判決事実摘示と同一(但し、原判決二枚目裏二行目に「一部取消し、」とある次に「譲渡」を付加する。)であるから、これを引用する。

理由

控訴人が昭和四三年三月一四日付でなした昭和四二年分所得税の確定申告に対し、所轄生野税務署長において、申告外の不動産譲渡所得八一一万一、六六二円があつたとして更正処分をしたこと、これに対し、控訴人は、法定の期間内に異議の申立てをし、これを棄却されたので、法定の期間内にさらに審査請求をしたところ、被控訴人は、原処分を一部取消し、譲渡所得金額を四八一万九、八八五円、申告税額を一五三万六、四〇〇円、過少申告加算税を七万六、八〇〇円とする旨の裁決をしたことは当事者間に争いがない。

そこで、本訴は出訴期間経過後に提起された不適法な訴えであるとの被控訴人の本案前の抗弁について判断する。

この点につき、控訴人は、控訴人が裁決のあつたことを知つた日は昭和四六年二月五日であり、本訴は出訴期間内に提起された適法な訴えであると主張し、成立に争いのない乙第一号証、当審証人生野敬子の証言および原審における控訴人本人尋問の結果を綜合すると、控訴人は、昭和四五年二月頃から同年七月頃まで、転地療養のため、滋賀県在住の子の家に滞在し、控訴人の妻久重もこれに付添つていたので、肩書住所の留守宅には、控訴人の別の子の妻生野敬子が、四、五日に一度ぐらいの割で、掃除をしたり、郵便物が来ていないかを見たりするために来ていたこと、本件裁決書謄本は、同年三月二三日、生野敬子が控訴人の留守宅に来合わせていたときに配達せられ、同女がこれを受領して、いつも郵便物を置いておく本棚に置いて帰り、とき折り帰宅する久重の目に早晩とまるものと考えて、控訴人あるいは久重に何の連絡もしないでいたことが認められる(ただし、本件裁決書謄本が右の日に控訴人の肩書住所に配達されたことは、争いがない。)しかしながら、控訴人が裁決のあつたことを知つた日が昭和四六年二月五日であつたことについては、これを認めうる証拠がなく、かえつつて控訴人本人の原審における供述によると、控訴人は、昭和四五年七月中頃に前記療養先から自宅に帰り、程なく本件裁決書謄本を見て本件裁決のあつたことを知つたが、右書面に記載されている三箇月の出訴期間をすでに経過してしまつたのではないかと考えたところから、同年九月頃大阪国税局相談室テレフオン相談係に電話で出訴期間について相談をしたことが認められ、これに反する証拠はない。右認定の事実によると、控訴人は、遅くとも昭和四五年九月頃には、本件裁決書を見て、本件裁決のあつたことを知つていたものというべく、一方、本訴かそれより三箇月以上を経過した昭和四六年二月一六日に提起されたことは記録上明白であるから、生野敬子が控訴人に代つて本件裁決書謄本を受領する権限を与えられていたかどうかについて判断するまでもなく、本訴は、行政事件訴訟法一四条一項所定の出訴期間を経過したのちに提起されたものであることが明らかである。

なお、控訴人は、原審において、前認定のとおり大阪国税局相談室テレフオン相談係に電話で出訴期間について相談したときに、一年以内であれば訴えを提起できるとの回答を得た旨供述するけれども、控訴人本人の右供述も、前認定のとおり本件裁決書謄本に出訴期間として三箇月という期間が記載されていた事実を併せ考えると、特段の事情のない限り、この供述だけからでは、右回答が、裁決の日から一年以内であれば、裁決のあつたことを知つた日から三箇月を経過したのちであつてもよいとの趣旨のものであつたと解することは到底できないのであつて、他に前記相談係の電話回登が右のような趣旨のものであつたと解すべき特段の事情を認めうる証拠はない。

すると、本訴を出訴期間徒過後に提起された不適法な訴えとして却下した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩本正彦 裁判官 日野達蔵 裁判官 平田浩)

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